キャラメルマキアートの苦さを消す甘さがほしい
「ただいま」
21:00
玄関のドアが閉まる音と共に大好きな人の声が部屋まで聞こえる。
「おかえりなさい!」
そう私はたった今作っているチキンライスの入ったフライパンの火を止める。
ああ、なんて幸せなんだろう!
「え!今日オムライス?わー俺の好きなご飯!
いつもありがとう」
そうして私の大好きな人は私の頭を撫でる。
外は寒い11月の夜なのに、この人の手はいつも暖かい。
私はすぐにオムライスの卵を焼いて、机に作った料理を並べた。
彼は上着をハンガーにかけて、家にある部屋着に着替えて腰を下ろす。
「今日も疲れたー!
なんかさ、今日は平日だから客も少なかったんだけど、クレームの電話入ってさ、あー疲れたー」
「うわ、それは大変やったね。
お疲れさまやん!」
「いやほんとに。だからやっと癒されに来たって感じ。」
そんな他愛もない話しをしながらご飯を食べる。
私の場所が癒されるなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
ご飯を食べ終わった後はすぐに洗い物を流しに持って行ってくれて、洗い物までしてくれる。
ああ、なんて出来た彼氏なんだ。
彼とは付き合ってもう3年半になるのだけれど、未だに優しい。
この前なんて熱でダウンした時は早く来てくれて、おかゆまで作ってくれたのだ。
みんなに自慢したい!
そう思いながら私はブランケットを羽織って携帯を触りながら待つ。
カチャとお皿を並べ、タオルで手を洗い、洗い物を終えた彼は真っ先に私に抱きついてくる。
「あーーーー。
幸せ。癒される。」
これからが私たちのイチャイチャタイムなのだ。
「私も幸せ!今日も来てくれてありがとう。」
きっと私はとってもにやけた顔で彼にお礼を言っただろう。
彼も同じように笑っている。
でもそんな幸せな時間もタイムリミットがある。
23:00
「じゃあそろそろ帰るわ。」
ああ、いつも聞きたくない言葉。
もうこんな時間。知ってたけど、30分前から嫌だ嫌だと思ってたけど。
「うん。次はいつ来れる?」
「んー。ちょっと答えられないけど、次の休みの映画デートの日は必ず会えるから。
それまでに来れそうな日があれば連絡する。」
そう言って暖かい手で私の頭を撫でる。
幸せ。
「わかった!駅までおくるー!」
もうコートが必要な寒い夜の外に出て、彼の暖かい手を繋いで駅まで歩く。
幸せ、しあわせ。
駅まで5分で着いてしまう自分の家からの近さ、この時だけは嫌で仕方ない。
もっと長ければよかったのに。
改札前での「またね」
それが私と彼の1日の終わり。
彼はこの1時間後に、自分の奥さんと子供の待つ家に帰る。
ああ。
幸せなのか。
幸せってなに?
なんでこんな寒い中外にいるんだ私。
彼が乗った電車が見えなくなった、この瞬間はセンチメンタルになる。
もう3年半。
今日は冬が来たかって思えるくらい寒すぎて、いつもよりも涙が出そうになるくらい悲しくなる。
あまりにも寒すぎて、冷たくなった手を握ってくれる人もいなくなったから、あっかたかい物が飲みたくなった。
駅の中にあるカフェでいつものキャラメルマキアートを頼む。
今日は甘いもの飲みたい。
「キャラメルマキアートのトールサイズで、キャラメルソース多めでお願いします。
あと、なんかもう少し甘くできますか?」
いつも笑顔で迎えてくれるお姉さんに聞いてみた。
「ホットですか?アイスですか?」
「ホットです。」
うーんと少し考えるお姉さん。
ああ、なんて可愛いんだ。私もこんなに可愛かったらもう少し彼も一緒にいてくれるかな。
ああ、また変なこと考えた。ああ。
「それでしたら
エスプレッソ少なめにして、キャラメルのシロップに変更して、ちょっと多めにして、泡のミルク多めとかオススメです」
うん。
何を言ってるのかよくわからないけど、
「じゃあそれでお願いします!」
そうして出て来たドリンクは
フォーミー
リストレット
キャラメル変更
エキストラシロップ
エキストラソース
なんて長いんだ。
…でも、なんか私だけのドリンクみたいでちょっと嬉しい。
そしてカップに「thanks」と可愛いキャラクター。
はあ。お姉さんは天使なんですね。
暖かいドリンクを冷たい手を癒すかのように両手で包み、飲みながら誰も待っていない家に向かう。
一口飲むと泡のミルクとキャラメルのソースの味がとても優しい味。
「え!おいし!」
1人でびっくりしてしまう。
少しだけ、でもなんとなくの感覚で出てくるコーヒーの苦さが甘すぎを抑えてくれてはいるものの大好きなキャラメルのミルク味。
うわーーー。癒される。
さっきの彼の暖かい手よりもなんか、あったかい気持ちになれる。気がする。
私も、いつか誰かの特別になりたいなあ。
to be continue....